Interview

週10時間の練習で

ironmanハワイで
10時間を切る

Entry.10

佐相 宏明

Hiroaki Sasoh

Q.学生レースとはどのように向き合っていたのですか?

学生レースに出ることに疑問を覚えたのは4年生の時です。2年生の時は入ったばかりだったので、そういうものだと思って出場し、3年生の時はチームの幹部ということで当然のように出場して、4年生になった時に迷いが生まれました。一番迷いを抱いたレースはインカレで、出場しても結果が出ないことは分かりきっていました。自分の前にはスイム18分くらいで泳ぐ選手がいて、そこが逃げ切って、自分はいいとこ60番目くらいにゴールすることになる。レースとして旨味がなく出場を悩んでいました。
逆にインカレ予選である関カレに関しては迷いはなくて、なぜかというとある程度力試しができると思っていたからです。もう一つはスケジュールの関係で、7月の2週目に皆生に出ることが決まっていて、その3週間前のレースだから最後の高強度短時間の練習としていいだろうと思いました。
だから関カレに出ることは一切迷いがありませんでした。
インカレに関しては迷いがあって、エントリーしたけれど何を目標にしたものかなと悩んでいました。でも、インカレは走るのが楽しいレースでランについては2.5km×4周でかなり応援がいて、バイクも同様でそれなりに応援がいます。そこで走ることには楽しさが伴うだろうなと思えて、これがモチベーションになりました。トップで戦っている人には申し訳ないけれど、自分の中でインカレは一種のお祭りです。高い順位は狙えないけれど、出場して走ることに意味がある。結果として四年生は学生レースに積極的に出たことになりました。


結果を出すことでも、楽しむことでも、出場するレースには意義を持って臨んでいることが伺えた。それが明確だからこそ実直に練習に取り組んでいるのだろう。

Q.大学院に進学してからは、ショートディスタンスはほとんど出ずに、長い距離の大会を転戦しましたね。

ショートのレースにも多く出場した2016年と、ロングのレースに絞った2017年を自分の中で比較すると短いレースを入れておいて、その一ヶ月後くらいにアイアンマンに出るのがいいなと思いました。今年は出たいロングのレースが3本(宮古島、皆生、ironmanハワイ)あったので、この間にショートを入れると、レースとレースの間にまったくトレーニングができません。つまりロングのレース年間3本だと厳しくて、2本プラスショートという選択が現状の自分には向いているかなと思いました。
2016年はショートによく出ていました。位置付けとしてはロングに向けてのトレーニングです。ロングは長時間低強度ですが、それに対して高強度短時間の練習という意味合いがありました。レーススケジュールにおける2016年と2017年の大きな差は、この短時間高強度トレーニングの有無です。2017年シーズンを終えて振り返ってみると、高強度のレースが自分のスケジュールの中に入っているということが必要だったと思います。

Q.3週間というのはどこから導かれたのですか?

3週間というのは自分の身体のリカバリーに要する時間です。なぜ3週間かというと、そのインターバルを選択した時にが最もパフォーマンスが出ると考えているからです。試行錯誤を繰り返した結果、3週間前には高強度のトレーニングをすることで身体がよく動くと結論しました。レースがあるのはどうしても週末なのでもしかしたら3.5週間間隔がいいんじゃないかとか思ってもいます。5年後やもっと身体が衰えたりした時に最適なインターバルが4週間に変わったり、ショートのレースじゃダメになったりという変化はあるかもしれません。現状としては3週間前にショートのレースを入れることで結果が出ると実感しています。特に皆生はうまくいって優勝できたという印象です。

Q.そのような状況の中の2017年でもアイアンマン世界選手権で10時間切りを達成しました。そこでの心がけ、感想などについて教えてください。

まず自分のロングのレースに対する心がけとして、欲を出すと絶対に潰れてしまいます。今日は10時間を切ってやろうと思ってレースに出ると11時間以上かかってしまうし、年代別1位取ってやろうと思ってレースに出ると完走すら危うかったりします。10時間を切ろうと思ってレースに出ることはやめました。
ただ心構えとして、自分がベストなパフォーマンスをできれば、よほどコースがタフでない限り10時間は切れるものだと思っています。
そのギリギリのところがコナのコースです。コナのコースは一般的に通常のフィニッシュタイムからプラス30分と言われています。バイクのアップダウンもあり風もかなり強く、その上緯度が低いということで日差しも厳しい。そのコナでまずは10時間切りたいと思っていて練習の時のタイムと照らし合わせた時に、プラス30分というのも考慮に入れるとギリギリのラインだなと思いました。ギリギリだなということを頭の片隅に入れて、レースに出ました。結果として10時間は切ることができました。
台湾は10時間を切ってやろうと思っていて、事前には高速コースだと言われていたこともあって、攻める気持ちでいたら大失敗してしまいました。反対に成功したレースはそういうことをあまり考えていなかった。優勝した皆生のレースでは気づいたらバイクで1番になっていて、それでも誰か来るだろうなと思いながらマイペースで走っていたら意外と大丈夫でした。
2015年のハワイもそうです。当時は行けたことに満足していて、楽しみたいという純粋な気持ちがあってタイムは二の次で、不思議なことに案外いい結果が出ました。


今回のハワイは結果として10時間を切れた訳ですが、めっちゃ嬉しかったです。自分の練習時間は週に10〜13時間。かなり低い水準だと思います。聞くところによると強豪の某体育大学は25時間近くやっているらしくて、コナに出場する人たちの平均がおよそ20時間。プロになると週40時間。その中ではかなり少ない練習量です。だけどそれでも結果が出ると考えて練習をしてきました。その結果、コナで10時間を切るという、トライアスロンをやっている人には分かりやすい結果を出すことができて嬉しかったです。コナで10時間切っているのは2400人中の400人程度なので上位16パーセント。そもそもコナに出ている人が上位3パーセントだから、男女年齢差は置いておいてそれなりの結果だと考えています。
自分のトレーニングの成果が身を結んだものがコナにおけるサブ10だったので、嬉しかったです。それがサブ11でもサブ12でもよかったかもしれなくて、自分のトレーニングの成果がしっかり出たというのが嬉しかったです。

大会に出場する意味を見出し、そこで目標とする結果を導くために効率的な方法を模索する。トライアスロンという学問における偏差値があるのであれば、彼は在籍する大学と同じ偏差値を有するのだと感想を抱いた。それでは実際にトレーニングを効率化するパワーメーターについて話を伺ってみた。