Interview

中村 浩士

旅は振り返るもの

Entry.22

中村 浩士

Koji Nakamura

旅の思い出

新しい一歩は、必ずしも断固たる決意の下にあるわけではない。なんとなく、本当になんとなく旅に出て、目的地も曖昧なまま道を歩く。標識もしばらく見ていない。気づかないうちに、地図上の国境を越えていた。振り返ってみれば、そこが転機だと言えるかもしれないが、その中にいたら気づかない。そんな旅を続けている。同じ道を歩いたり、新しい道を開いたり、色んな旅があった。辛くて目の前しか見えない旅、まわりの景色を楽しめるようになった旅、後ろを振り返ることができるようになった旅。家に帰って、そしてまた新しい旅に出る。何度も何年も続けるうちに仲間も増えていた。そして、また、中村浩士は旅に出る。

気づいたら歩いていた

思い出してみれば、きっとそれが大きな変化なのだが、その渦中では気づいていない。2011年のことだった。

始まりは、20人弱の経営者の集まりでトライアスロンをやらないかと誘われたこと。当時、そこに加入したばかりで、みんながやるものだと思って流れに身を任せた。実際に始めたのはたったの4人だったのだが、今やらないとトライアスロンをやる機会はないだろうなあ、と思っていた。
トライアスロンに誘ってくれた佐藤大吾は、日本最大のソーシャル寄付サイトを運営するジャパンギビング(当時ジャストギビング)の代表で、前年にハワイで開催されたホノルルトライアスロンに完走している。



トライアスロンを新しく始めるには正直、ハードルは高いと思った。月に数度家の周りを走っていたものの、一体どれほどの練習をすればいいのか想像もつかない。走ることにこそ抵抗はなかったが、ロードバイクも持っていなければ、1500mを続けて泳いだ経験もない。当然、その三種目を組み合わせた経験もなかった。

10万円の予算で近所のバイクショップを訪れても、あまりいい顔はされずに引き返す。偶然、知人から譲り受けることができたのが幸いだった。 水泳の経験はなくスクール通い。海への不安から大会直前のゴールデンウィークには沖縄の海で特訓もした。

旅の楽しさを知る

多少の身体の怪我などを抱えながら万全とは言えない状態でトライアスロンに挑んだことの不安は大きい。オリンピックディスタンスだからやってみれば何とかなると、聞かされていたが、やはり未知への突入に不安はある。頼りの大吾は震災の影響で会社が忙しくなり、唯一の経験者なしでレースに挑むことになる。

実際のところ、レースは確かに何とかなった。完走すること自体の難易度はそこまで高くないことを知る。だから、それ自体に強い魅力を感じたわけではなかった。

途中ですれ違う仲間と声を掛け合う。

ハイタッチをする。

ゴールで帰りを待つ。

そうしたチーム戦のような思い出の共有が心地よくてたまらなかった。

旅が、どこに行くのかではなく、誰と行くのかが重要であるように。

未知の場所へ仲間と向かう、高揚感が何よりも心地よかった。