Interview

「好きだから」

Entry.18

平谷 隼

Shun Hiraya

トライアスロンは楽しいはずなのに

大学1年生にして出場することになったアイアンマンハワイの舞台。それは2回目のアイアンマンで、前回よりも長く辛く感じた。会場に流れる独特の雰囲気。初めての時は自分の楽しみだったのに、一度経験をしているからか周りの様子が気になってしまった。それが良くなかったのか、周りに飲み込まれてしまう。スイムでは当たり負け、バイクでは補給のミスをして、ランではヘロヘロになりながらコーラを口に運んでいた。
初めてはただ楽しかったことを覚えているのに、今回はキツかったことや反省ばかり。最年少で出場したということにおごりがあったのか、高校時代の練習した貯金を使い切ってしまった印象だ。おかしい。トライアスロンはもっと楽しいはずなのに。

2回目のニュージーランドはハワイの出場権利を狙っていた。手応えは感じていたものの、結果としては実力が足りなかった。レースに出るたびに難しさを知る。
日本で行われた703セントレアは、バイクで上位を狙う位置につくもアップダウンのあるランコースに苦戦する。一度味わった楽しさを追いかけて、もう一度味わうためにはどこに行けばいい?
佐渡の日本選手権は初めてのリタイアを経験する。バイクで吐いて、ランの8km地点で脚が止まる。レースが終わった。次のレースの予定が頭をよぎったのか、次があるから辞めようと考えてしまう。冷静な判断、のはずだった。だけど、嫌なイメージが付きまとう。好きで始めたはずなのに、どうして辞めてしまったのだろう。それはつまり、好きじゃなくなってしまったということなのか? 自問自答を繰り返す。もしかして、レースだけじゃなくてトライアスロンも辞めてしまうんじゃないだろうか。そんな風に思ってしまったのだ。

ガーミンの電子音

不安の中で出場した70.3廈門。中国でのレースは来年のハワイのスロットが設定されている。結果を出せば、ハワイに行ける。それは分かっていたけれど、意識はしすぎないようにした。順番のスタートするローリングスタート方式であったこともあるけれど、やっぱり自分のレースをしたいと思ったからだ。トライアスロンが好きであることに誇りを持てるレースにしたかった。すると、レースは思いの外するすると展開する。初めてのニュージーランドのように自分と向き合うだけで楽しむことができたのだ。ランの8km地点を通過してガーミンの電子音がした。
あ、もう大丈夫だ。トライアスロンが好きだ。そう思い直すことができた。
結果は、ハワイの出場権利を獲得。長いような期間を過ごすと、レースはより一層楽しくて、短く感じた。

また、ニュージーランドも出場する。
また、ハワイも出場する。
その前にリタイアしてしまった日本選手権でリベンジしよう。やりたいことが山積みで、待ち遠しい。そういう時はレースが短くなってしまうけれど、好きだから仕方ない。

トライアスロンは80歳になっても続けたい。
その日が来るのはずっと先のこと。長い長い道のりの果てにあって、なかなかゴールが見えない目標だ。だけど、きっと、それだけ楽しみにしているレースならばどれだけ時間がかかっても一瞬で終わってしまうのだろう。
その日を思い浮かべると、今夜もワクワクして眠れなさそうだ。