Interview

「好きだから」

Entry.18

平谷 隼

Shun Hiraya

初めて出場したアイアンマンレース。
卒業間近の平谷隼はニュージーランドへと向かった。エネルギーは、誰かに注目されたいというような外に向けられたものではなく、自分の中を巡る何かを確かめるために使われた。ただただ、出たかった。そこに行きたかった。やっとだ、ようやく憧れが実現する。
スタート直前の気持ちは、早くスタートしたいと思う、冒険に旅立つ子供のようなものだった。はやく、はやく、はやく、気づくとあっという間にフィニッシュしていた。
子供の頃に楽しみにしていた行事が待ち遠しくてなかなか訪れないのに、当日はあっという間に終わってしまったみたいだ。長い長い、11年にも渡るワクワクは、長い長いはずの未知の冒険であるアイアンマンレースを一瞬で終わらせた。
翌日、全身を味わったことのないダメージが襲ってきた。ああ、これさえなければ、今からもう一度同じレースをしてもいい。それくらいに夢心地だったのだ。それくらい楽しかったのだ。
ずっとトライアスロンを続けるのだろう。そう確信した。

ハワイのフィニッシュを観た

自分が投げかけた言葉が、ずっとその誰かの心の中に残っていることはあるのだろうか。自分から離れてしまった言葉がどうなったのか、確かめる術はないけれど、受け取ったことであれば実感している。
小学校5年生、サッカー少年であった平谷をトライアスロンのレースに誘った友達はもうトライアスロンをしていない。一方で平谷は、高校を卒業して大学生になっても続けている。
初めて出場したレースは地域のキッズ向けの小さなレースであったが、味わったことのない達成感に感動したことを覚えている。

その頃、とある映像が頭の中に流れ込んできた。アイアンマンレースの最高峰と呼ばれるコナ島でのレース。覚えているのは煌々と照らされているフィニッシュゲートだ。最後の直線を惜しむように、ある選手は涙を滲ませ、ある選手は笑顔に満ちて、ある選手は何かを掴んでいた。数えきれない人垣に讃えられた彼ら、名前も知らない彼らに憧れた。あそこに行くとどうなるのだろう。どうやったら行けるのだろう。平谷少年は憧れた。
しかし、その時点でレースに挑戦することは不可能である。努力云々の問題ではなく、単に18歳以上でないと出場できないレースであるからだ。7年も先の話、憧れではあるけれど少し遠すぎるような気もした。
7年もの間、ひたすらそれだけを見続けていたわけではない。フィニッシュゲートの明かりに視線を送ってもまだ遠すぎて見えやしない。だから、じりじりと近づいていった。中学まではサッカーに熱中し、高校では陸上部に奮闘した。目の前の明かりで少しずつ足場を照らして進んでいたのだ。時折、ほんの少しずつトライアスロンの練習もしながら。

そして、高3の夏。とうとうずっと遠くにフィニッシュゲートの明かりが見える気がした。アイアンマンニュージーランドにエントリーしたのだ。高校生活の集大成ではないけれど、子供の頃に憧れたものにようやく挑戦できる。自分はどこまで行けるのだろう。

ゴールにたどり着いた平谷は、新たな道を歩み始める。