Interview

憧れの先へ
日野壮一郎は
手を伸ばした

Entry.27

日野 壮一郎

Souichiro Hino

届いた舞台

行ってもいいのかな、と思いつつも、やっぱり嬉しい気持ちに間違いはなかった。純粋に設定した目標を達成したことが嬉しかった。競技者として全国大会に出場することの憧れはいつだって変わらない。
選手名簿を調べて、他の一年生は少ないと知る。転向組はさらに少ないというのも誇らしかった。少なくとも一年生の中では上位の存在なんだと思っていた。競泳を始めたばかりの頃と近い感覚かもしれない。
結論から言うと、インカレは完走者中最下位というレースに終わった。想定していないレース展開で、舞い上がっていたと思い知らされる。
スイマーなら完走は難しくないと言われていたが、そんなことはない。そもそも得意なはずのスイムでも50位くらいで武器になっていない。そこからずるずる順位を落とす。知っている選手がいて、ようやく落ち着いた場所は周回遅れから必死に逃れようとする最終集団だった。落ち着いている場合ではない。
バイク周回遅れになるとそこでレースが終わると知っていたが、恐怖するなんて思いもしなかった。関係ない話だと思っていた。
だけど今は、自分一人の力では何も出来なくて、ただ、ついて行くだけ。
その集団でバイクを終えて、要するに最下位でランをスタートして、そこから追い上げる力なんてあるはずもなかった。力が入らない。ハンガーノックになっているのだろう。走っている意味はなんだろう。とっくにランコースを走っている選手が周回抜かしをしてくる。次々に背中が現れては消えて行く。自分の背中を追いかけているのは、最後尾マーシャルの自転車だけ。
コースは四周回。三周目の途中で、レース前には想像もしていなかったことに気づく。このままだと、自分しかコースにいなくなる。取り残されてしまう。あんなに艶やかに見えた沿道の応援がゴール付近に集まって、もう自分を見る人がいない。ほとんど歩きながら、ゴールする意味を考えて、もしも辞めたらなんてことも考えた。こんなことになるなんて予想だにしなかった。
もしも、自分が辞めてしまったら、一年生が出るには遠い舞台に見えてしまうかもしれない。変に遠くに見過ぎて、誰も目指さなくなるかもしれない。それが、なぜ、いけないのかってその時は説明することもできなかっただろうけど、とにかく、ダメだ、と思った。
フラフラになりながら誰もいないコースを一周。たまに聞こえてくる応援をなんとか支えにして、最後まで走ることができた。
始めたばかりですぐに届いた舞台、
そこで、突き落とされる思いをした。

高く伸びた目標

何が原動力か、それはインカレで最下位であったことなのだろうが、その屈辱、のような気持ちを晴らすにはどうすればいいのか分からず、ひたすらに練習をした。何に焦っていたのかは、分からない。落ち着かなかった。
その中で足を踏み入れたのは日本選手権の会場だった。観客がいる。たくさんいる。歓声が飛び交っている。このコース上に自分がいたらどんな風に見えて聞こえるのだろう。インカレのあの寂しいコースに取り残された自分は、ここにこそ来たいと思った。
憧れて、翌年には地域ブロック予選である関東選手権に出場する。スイムを先頭集団ギリギリで上がることに成功する。学生トップの選手の背中がすぐそばにあった。しかし、自分の存在を意識させるまでもなく置いていかれてしまい、第二集団に落ち着いた。
この中にボーダーがあることはわかっていても、ひとり、また置いていかれてしまう。
水泳の時からそうだった。
高い目標が目の前に一瞬訪れる瞬間が必ずある。そして、気づいた時にはずっと遠くに離れている。そのままの目標でいたら、必ず悔しい思いをしてしまう。
悔しい思いはもうしたくない。もちろん、目標を下方修正することはなく、だ。
スポーツ選手として、胸を張れる舞台に自分が立つことが、ずっと胸の内にあった。正直でいたい。インカレに出る時には、出ていいのかな、なんてことを思ったけれど、今度は、胸を張って出てみせる。
目標は、今までで一番高い。