Magazine

  • home
  • >
  • magazine
  • >
  • ムコーダマガジン#8

ムコーダマガジン

No.8

初めてのレースを超えたい



【 初めてのレースを超えたい 】


初レース。ワクワクするような緊張するような、誰にしたって、トライアスロンじゃなくたってなんだか特別なような気がする日。

僕にとってのそういう日は、晴れていることが多いような気がする。


大学に入学してトライアスロンを始めた僕はプールで25mを泳ぐこともできなかった。

初心者大歓迎と謳っていた部活であったが「あそこまで泳げない人は普通は入ろうと思わないよ」と後になって聞かされる。

泳げないことを知っている幼馴染は「そのうち辞めると思ってた」と言っていた。

それくらい、まともに泳ぐことはできなかった。


共に初心者として入部したはずの同期は一足先に6月の関東学生選手権でデビューを果たしていった。

順位なども気にせず、その走り抜ける姿があまりにも羨ましかった。

9月の頭には全国大会が開かれた。先輩たちの真剣な姿が、またトライアスロンへの憧れを大きく膨らませた。


初めてのレースはそれから一週間。

チームケンズが母体となっている国営昭和記念公園でのレースだった。

小学生の頃、遠足といえば昭和記念公園だった。高校の校内マラソン大会も行われた。思い出の場所でレースをすることにソワソワした。

まともに泳げるのかと言えばノーである。続けて1500mを泳ぐこともできないままだった。それでも出ることができたのは、足のつくレジャープールがスイムコースだったからだ。

初めてのOWS、人海に飲まれて苦しくて諦めたくなった。ただでさえ続けて泳ぐこともままならないのに、のんびりと泳げない状況に焦らずにはいられない。

泳げないムコーダの写真
750mがあまりにも遠くて、ゴーグルの中に、入らないはずの水が溜まった。足をついて、息を整えて、また泳ぐ。

失格、と言われても仕方ないくらいに足をついた。むしろ言って欲しかった。

むせびながら、スロープを上がる。バイクラックはがらんどうで、やっぱり遅いんだなと思い知った。

バイクシューズを履いて、カツカツと音を鳴らしながらコースへと急ぐ。とうとうスイムを終えたと、それだけで嬉しかった。


何度も訪れたはずの公園へバイクを進ませる。進めば進むほど、見たこともない景色が流れていった。

広い公園の一部しか知らなかったんだなと新鮮な気持ちが、初レースと重なっていく。ここはどこだろう。どこまで行けるんだろう。ただ、前だけを見ていた。

時折聞こえてくる応援。声を聞くだけで、顔が見えるだけで、嬉しくなる。見栄を張って、応援が固まっている場所でスピードを上げた。


ランは声を出しながら走った。
ムコーダの写真

「☆▽□×◯」

なんて言ってたっけ。覚えていない。

ただ走るだけなのに、こんなにも楽しいことがあるのだろうか。

その理由もわからずに走り抜ける。スイムはあんなに長かったのに、ランはもう終わってしまう。

残りの時間をもっともっと楽しみたくて、ゴールに近づきたくなかった。ずっと走っていられたらいいのに、なんて思ったりもした。



ムコーダの写真

初めてのレースは特別だった。

もう一度同じことをしても、絶対に楽しむことはできないと同時に気づいた。

大人になるに連れて、一年が経つのが早く感じるように、だんだんと感情が薄れていってしまう。

トライアスロンも同じだった。同じ楽しみを味わうには、今まで以上の練習や準備が必要になる。

停滞していたら、感情の波が落ち着いて凪いでしまうのだろう。静かで進むことのない大海原にポツンと取り残されてしまう。


いくつもの初めてのレースを体験する。練習もして泳ぐことへの恐怖はいつのまにか消えていった。

初めてのロング、初めての海外、初めてのトライアスロン駅伝、初めてのリレー、初めての1人遠征、初めての場所、初めて出会う人。


レースに出るたびにワクワクして、トライアスロンの楽しさを思い出す。

だけど、やっぱり1番最初を忘れることができない。今になって思えば、大した練習をしたわけでもない。速かったわけでもない。困難にぶち当たったわけでもない。

「それなのに楽しかったレースは?」と聞かれると思い出さずにはいられないのだ。

初めてのレースは特別なもので、同時にそれが悔しく思うようなこともある。

忘れたくないけど、更新してやりたい特別なレース。それが僕にとっての初めてのレースだった。


大切な思い出であることに変わりはない。だけど、それを超えるようなレースが訪れるようにまだまだ自分なりに頑張ってみたいと思う。

ムコーダ