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高校生トライアスリート
中山彩理香
〜現在地と夢の舞台〜
Entry.21
中山 彩理香
Sarika Nakayama
放課後とはいえ、東京都立町田高等学校に制服を着用している生徒はいない。
私服登校を採用している進学校の気風を感じながら教室の扉を開いた。
教室は、初めて訪れる場所であるのに懐かしかった。教卓、机、黒板、窓、そこだけにしかない特別な空間とは言い難い。そこには中山選手を特別視するような気風もなかった。スポーツ選手である前に一人の高校生として青春を謳歌する。
中山選手の所属する陸上部の友人たちはアジア選手権や世界選手権に出場したことに驚きを見せる一方で「声がでかい。一言で表しちゃったらうるさいんですけど、一緒にいて楽しいです」と遠慮のない間柄がうかがえた。聞いてみると中学時代の成績はオール5の優等生。そんな彼女の夢はトライアスロンでオリンピックの表彰台。見つめる先だけが普通よりもずっと遠くにあった。
Q.トライアスロンにおける目標を教えてください。
「オリンピックでメダルを取りたいというのが一番で、大きな目標です。東京は選考ルール上、間に合わない部分もあるので2024のパリと2028のロサンゼルスで上を目指していきたいです。まずはWTSへの出場を目指し、それから最高の目標であるオリンピックを目指したいです。
今年の目標は世界ジュニア選手権で8位以内に入ることです。そのために、3月のアジア選手権選考会で4位以内に入らなければいけない。アジア選手権でもメダルを取れなければ厳しいと思っています。それを達成するにはスイムバイクで第1パックに入って、ランは18分20秒を目安にしています。できれば18分フラットで走りたいところです。それまでに認定記録会に出る機会があれば17分台は出しておきたいです。
日本選手権がスタンダードディスタンスなので、そこで勝負したいという思いはあります。ただ、今は世界ジュニア選手権などのスプリントに重きを置いています。もちろん、ランの距離を少しずつ増やすなどの対策も始めています。」
オリンピックを最大の目標に置いていることに迷いはなかった。スポーツ選手として、アスリートとして、世界最高峰の舞台を高校生ながらに見据えている。そこで語られるストーリーは曖昧なものではなく、聞くほどに鮮明なものだった。どれほど険しい道のりかを見た上でなお、憧れている。
夢物語ではなかった!
同席していただいた水泳部顧問の先生も、夢物語だと思っていたものに具体的な数字やルールが入り込み現実に見えているものだと認識したという。オリンピックを目標にしているという中山選手の話に優しく頷く先生に入学当初から回想していただいた。
「誇らしいです。入学してきた当初から、トライアスロンをやるので水泳部と陸上部と兼部して、外ではクラブチームに入っていいですか? と水泳部のところに来て、もちろんと答えました。最初はそんなにオリンピックと言っていなかったですが、水泳の大会では勝負強いところを見せてくれました。私はトライアスロンの世界のレベルまでは分からないですが、東京を目指しちゃえ!と話したりしていました。冗談半分だったのですが、最近は制度的に厳しいと具体的な話が出るようになりました。
もし、東京に出れるのなら教員総出で応援に行こうとか、パリも応援に行こうかななど、教員なりに楽しみにしています。私は水泳の大会を観ているので勝負強さを知っているのですが、他の先生は体育祭で初めて「すごい走りの子がいる」と言っていました。そこで、「あれが中山彩理香で……」という話を教員の中でしました。800mでしたが圧倒的な差をつけていました。」
その体育祭は、初めて出場する世界ジュニア選手権の直前でもあった。クラスの代表に選ばれるも万が一を考えて力を抜くことも考えていたというが、友人との約束を果たすために圧倒的に差をつけてフィニッシュした。
2017年、高校2年生、世界への扉を開く
その世界選手権や、アジア選手権は自身のキャリアの中で大きなステップとなり、頭角を現したシーズンでもあった。19歳以下で争うジャパンジュニアランキングでは3位になった。力がついている実感はありながらも、やはり海外選手との実力差を感じたという。
「海外選手はスイムが速いと感じました。日本のU19の大会では上位で上がれても、ロッテルダムで行われた世界選手権ではギリギリ真ん中くらい。バイクでは第1パックに入れずにスイムのレベルの高さを感じました。あとは、バイクのパワーが凄い。ロッテルダムのコースは減速をしてからの立ち上がりが多くて、その度に離されたりする場面がありました。日本人はパワーよりテクニックがあると聞きますが、日本人もパワーを付けていく必要性を感じました。それと、背がでかい(笑)体格差がありました。」
4月に宮崎で行われた選考会で代表に選出されるも当時は自信があったわけではないという。
「(自信は)まったくなかったです。本格的な指導を受け始めたのが2017年の1月で、アジア選手権の代表を目指して平野司コーチのもとで練習をしました。特にバイクを強化しました。結果はジュニアで5番でしたが、認定記録会のスイムの成績などが考慮され、ギリギリ4番手として選出されました。アジア選手権の目標は16位以内でしたが、暑さに強いのか、たまたまランが走れて3位に入ることができました。その結果で世界選手権も決まりました。」
同世代には負けられない
世界で戦うためには日本でトップでいなければならない。その中でライバルと意識するのは同学年の和田純菜選手であった。
「和田純菜選手です。得意分野は違うんですけど、レースによっていつも勝ち負けがバラバラで、スイムバイクで逃げ切れれば勝てるし、バイクまでに追いつかれればランで負けてしまいます。
彼女に勝つためにはバイクまでに逃げ切ることが有効で、今はスイムバイク一人で逃げ切るにはどうすればいいかと考えながら練習しています。同時にランも強くなって勝負してみたいなと思うこともあります。一緒にスタートしても勝てるくらいにならないと世界では戦えないと思っています。」
現状に満足せず挑戦をする中山彩理香選手は2017年に世界の広さを知った。テレビで見るような憧れではなく、目指すべき世界へと変わった。現在地と夢の舞台、その道のりにどれだけの困難があるのだろうか。それは行き着いたものにしか分からない境地である。ただ、そこに辿り着いたかどうかは誰にでも分かる。期待の高校生トライアスリート。世界で戦う日は、そう遠くない。