Interview

努力無限

岩本敏の見る世界

Entry.14

岩本 敏

Satoshi Iwamoto

茨城県龍ケ崎市。
関東鉄道竜ヶ崎線に揺られて竜ヶ崎駅に降りる。地名の「りゅう」は様々な表記が混在するが、やはりその場所には伝説性を感じずにはいられない。そこにいる、「彼ら」は、何度も何度も滝を越えようとして、滝壺に叩き落される。まだ、登りきった先を見たことがない。「彼ら」はその先にある景色を見るために、愚直にその滝を登り続けるのである。

努力無限 岩本敏の見る世界

岩本敏には楽しみがあった。大学生になる前の話だ。ジュニア時代からトライアスロンにのめり込む鳥取に住んでいた少年が、世界への入り口を見たのだ。
所属していたチームの合宿に来てくれるらしい。そう聞いた合宿の前日は、わくわくして眠れない。想像上の生き物である「竜」ではなくて、でも、それくらい遠くてかっこいいオリンピアンに会えるのだ。また会える。楽しみだ。憧れの存在と一瞬でも練習ができることに、同じ空間で過ごせるだけでも嬉しかった。
だから、大学を選ぶことに他の選択肢はなかった。同じ気持ちの先輩もいる、他の場所と比較して選ぶような場所ではない。天秤にかけるようなことは、神をも恐れぬ愚行だし、仮にそうしても、圧倒的な偏りを見せるに違いなかった。岩本敏は流通経済大学トライアスロン競技部に入部する。

この4年間で何ができるだろう。高校を卒業して、プロになってオリンピックを目指すのではなくて大学生となる。その期間を、聖域と言っても過言ではないその場所で過ごすのだ。2人の先輩は、その4年間を終えようとしている。同じチームとして団体を意識できるレースが、日本学生トライアスロン選手権だった。
共通の目標を持ちながら、互いに競い合うレースは3回目だが、先輩は卒業してしまう。団体優勝もしたいし、学生でしか出場できない舞台で勝ちたい。いろんな気持ちが混ざり合いながら戦った。
結果は3位古山大、4位杉原賞紀、5位岩本敏。そして団体優勝。団体優勝は取れたことに嬉しさはありながらも、勝てなかったという反省が残る。きっと、いや、絶対に先輩たちもこの結果に満足していない。2年生の時に優勝した大さんも、インカレでは実力を発揮しきれていないように思えるタカさんも、入賞したからと言って満足していない。だって、その上がいるのだから。
そもそも、このチームは伝説の竜のような存在と練習をして、それを越えるためにやって来た。だから、満足できるはずがないのだ。その意思を引き継ぐようなレースだ。

竜が住む、龍ヶ崎で生まれたこのチームを作り上げた先輩が卒業する。今度は自分が最上級生となる。自分自身の目標のために奮迅することはもちろん、こうやって生まれた聖域での過ごし方を繋いでいきたい。
一定のラインで満足なんてしてしまったら、それ以上成長することはできないのだ。だから常に努力をする。悔しくて努力してもいいだろう。及ばなくて努力してもいいだろう。追いつくために努力してもいいだろう。
だけど、その先も努力し続けなくてはいけない。竜は、まだ自分が知らない努力を隠しているかもしれない。その全てを引き出して、自分のものにして、それ以上の努力をする。
そうすれば、自分も憧れの存在になれるだろうか。

努力することに限界はない。